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エコの優等生・風力発電に逆風 低周波は本当に有害か?(産経新聞)

 環境に優しい再生可能エネルギーの優等生「風力発電」。この風力発電が発する低周波によるとみられる健康被害を訴える人が、近年、増えている。低周波は本当に健康への悪影響があるのか−。環境省が風力発電を環境影響評価法(環境アセス法)の対象に入れる方針を固める中、風力発電が引き起こす問題点について検証した。(杉浦美香)

  [フォト]民家から見える風車。住民が低周波による健康影響を訴えている

■風車のまち

 静岡県東伊豆町。尾根沿いに白い風車が10基林立している。

 「3年前に風車の試運転が始まると頭痛や肩こり、目がしょぼしょぼするといった症状が出た。そのうち集中力もなくなった。落雷で風車の運転はストップしていたが、今月にはまた再開されると聞いている。再開されればまた健康被害が出るのでは…」

 風車の近くに住む川澄登さん(80)は、深いため息をつく。

 この健康被害の原因と考えられているのが、風車の回転で発生する低周波だ。100ヘルツ以下の周波数で、1秒間に1〜20回空気を振動させるが、人の耳には聞こえない。

 健康被害との因果関係は現在のところはっきりしていないが、川澄さんのように全国で風車の低周波による健康被害を訴える住民が増えてきた。そういった住民たちの会も設立され、環境省などに規制を求めている。

 「最初は身体の不調の理由が低周波とは分からなかったが、近所に聞けば同様に調子が悪いという人がいる。理解してもらえず、悩みを抱えている人も少なからずいるのではないか」と川澄さんは訴える。

■10年間で約12倍に増

 日本で風力発電が盛んに導入されるようになったのは1990年代以降だ。

 現在は全国で1500基を超え、その発電容量は186万kw(キロワット)にまで成長。10年間で約12倍に増えた。

 北海道や東北、九州など、風が平均的に強いなど風況が良い地域を中心に風車建設が進められてきたが、東伊豆町のように住宅地とさほど離れていない地域でも風車の建設が行われるようになるとともに、低周波によるとみられる体調不良を訴える苦情も寄せられるようになってきた。

 ただ、低周波による健康被害は、風力発電の増加に伴って起きてきた最近の問題というわけでもない。

 自動車の往来が多い道路周辺や橋、工場のコンプレッサーなどから発生することもあり、これまでにも多くの苦情が寄せられてきている。

 環境省は平成12(2000)年に、低周波の測定方法についてのマニュアルをまとめ、16年には手引書を発表した。低周波の発生源として、地下鉄やトンネルの換気によく用いられる送風機、集じん機、ディーゼルエンジンなどを挙げている。家庭用の灯油ボイラーのケースでは、ボイラーをガス燃料に取り換え、周囲にコンクリートブロックを置くなどの措置で苦情が改善されたという。

 環境省の調査では、低周波に関する苦情件数は増える傾向にあり、16年には135件あった。内訳は工場関連が54件と約40%を占めている。

 風車による低周波については昨年、静岡県東伊豆町、愛知県田原市、豊橋市、兵庫県南淡路市、愛媛県伊方町など全国5地域について自治体を通じて実態調査を実施したところ、低周波(一部騒音を含む)による苦情が22件あった。

 最近は、ヒートポンプ給湯機「エコキュート」による低周波の健康被害を訴える声もある。

■正確な測定は難しく

 低周波の影響については、感じ方に個人差があることや自然界にも存在することから、正確に測定することの難しさが挙げられる。

 このため、環境省は風力発電による健康被害の調査に初めて乗り出すことにした。調査は公募で行い、今年度から最長で4年間に及ぶ。この調査結果をもとに、風車の健康被害に関する有識者委員会を設置して対策を検討する考えだ。

 風力発電関連団体「風力発電事業者懇話会」と「日本風力発電協会」もこの調査に全面的に協力。現地での計測の際に必要な風速や発電電力などのデータを提供するとしている。

 環境相の諮問機関である中央環境審議会の専門部会は、9年に制定された環境影響評価法(環境アセス法)の見直しを機に、アセス法の対象に風力発電を入れることを検討すべきとした報告書案をこのほどまとめた。

 報告書は、「地球温暖化対策の推進により大規模な風力発電事業者の増加が予想される」と指摘した上で、「自主的な環境影響評価が行われているが、その4分の1において住民の意見聴取が行われていない」「評価書の縦覧が行われていない」ことなどを問題点として挙げ、アセスの対象に含むべきという結論を出した。

 ただ、低周波について直接的には言及しなかった。今月15日までに寄せられた意見を受け、中央環境審議会に報告する予定だ。

■異なる業界内の意見

 風力発電の業界団体は、アセス法の対象にするのではなく、政府の委託で風車建設の補助を出すかどうかを審査する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が作成したマニュアルなどの自主的な環境影響評価で足りるというのが基本的な立場だ。

 「風力発電事業者懇話会」などが、健康被害調査への全面協力を表明しているのは、調査で風車の健康に関する懸念を払拭(ふっしょく)したいと考えているからだ。

 風力発電に詳しい牛山泉・足利大学長は「自主的な環境影響評価を行っているといっても、業者の間で対応に相当の差があり、住民にきちんと説明を行わないままに強引に建設した業者があることも事実だ。トラブルの大きな要因になっている」と指摘する。

 風車の羽根と野鳥の衝突も近年、問題になっている。風力発電は、自然豊かな地域に建設される場合が多い。天然記念物であるオジロワシの越冬地である北海道では、以前からオジロワシの衝突例が問題になっていた。全国では平成14年度以降、20件が確認されている。この20件は環境事務所が死体を解剖して確認した例だけであり、そもそも報告義務がないため、実際の衝突例はもっと多いとみられている。日本野鳥の会は「風車の立地など何が問題か、早急に調べる必要がある」とする。

■調査置き去りに問題

 低周波による健康被害の聞き取り調査などを実際に行ったリスクコミュニケーションに詳しい「リテラジャパン」の西沢真理子代表は「これまで人があまり住んでいなかった地域に建設されていた風力発電が、人が住んでいる地域に建設されるようになったにもかかわらず、騒音や低周波など風車が与える健康影響調査が置き去りにされてきたことに問題がある」と指摘。

 その上で「電磁波や遺伝子組み換え食品など、人は新しい技術やよく分からないものに不安を感じるのに、風力発電についてはその不安を解消するための説明も十分行われておらず問題をこじらせた」と話す。

 世界は空前の風力発電ブームだ。一昨年の世界の風力発電量は約1億2100万kw、原子力発電所120基分になる。単年度では米国が836万kw、中国が630万kw。日本の発電量は中国の1年の導入量にも及ばず、世界13位と後塵(こうじん)を排する。

 風力や太陽光などの新エネルギー導入のため国は平成15年から、電力会社に新エネルギーによる電力の買い取り義務を課している。しかし、電力会社側は買い取り枠の上積みに消極的で、「風力は風によって周波数が一定せず、出力が不安定」と増枠には慎重だ。

 電力会社が出力を調整できるよう、高価な蓄電池の設置を条件とする地域もあり、風車新設のハードルを高くしている。政府は22年度に300万kwにまで増やす目標を掲げるが、達成は危うい状況だ。加えて低周波などのトラブルで逆風はますます強まっている。

 鳩山内閣が打ち出している平成32(2020)年までに同2(1990)年比温室効果ガス排出量25%削減の目標を達成するためには、再生可能エネルギーの導入をどのように位置づけるのか。低周波などの実態をきちんと調査した上で、総合的に対応する必要がある。

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by vyhyjz9n9t | 2010-02-20 21:24